2023年7月 甲武信鉱山










            2023年7月 甲武信鉱山

                ( Kobushi Mine , Jul. 2023 , Nagano Pref. )

1. はじめに

    2023年6月、鉱物の授業で小学生を甲武信鉱山貯鉱場に案内する下見に行くと、2000年に架けた橋が
   流されてしまっていた。居合わせたSさんと長男に手伝ってもらい、新たな橋を架けることができた。

 川上村甲武信鉱山貯鉱場 2023年6月
( Ore stock yard of Kobushi Mine , Jun. 2023 , Nagano)

    お蔭で、7月初旬に子どもたちは水にぬれることもなく川を渡れ、貯鉱場で水晶はじめ、いろいろな
   鉱物を採集でき大喜びだった。

 小中学生とミネラルウオッチング 2023年 7月
( Mineral Watching with boys & girls ,Jul.2023 , Nagano Pref. )

    Sさんへのお礼に、行きたがっている甲武信鉱山を案内させていただくことにした。7月第3日曜日は
   別な趣味の郵便切手の定例会があるので、その翌日と決めた。

    記録をめくってみると、最後に甲武信鉱山に行ったのは、2017年のミネラル・ウオッチングのフォロー
   アップで茨城県のK兄弟と行って以来になる。6年ぶりだ。

 2017年月遅れGWミネラル・ウオッチング フォローアップ
 ( Mineral Watching Tour Follow UP, Jul. 2017 , Nagano & Yamanashi Pref. )

    当時は古希(70歳)を過ぎたところだったが、すでに喜寿(77歳)を過ぎ、登れるか不安があった。
   しかも、この日は、朝から快晴で、川上村でも朝の気温が25℃ と高かった。
    Sさんには申し訳ないが、途中休憩を多くして、甲武信鉱山の主な採集ポイントを全て巡って、16時
   過ぎに下山した。

    東京にいても多い日は1万歩以上歩くこともあるので、足の筋肉と心肺機能は問題ないことが分かったが、
   暑くて熱中症寸前で、緑水晶産地への入口を通り越して川端下(かわはけ)水晶坑上の鞍部まで行って
   しまう一幕もあった。

    採集品は、ほとんどSさんに差し上げたが、松茸水晶産地で採集した両翼16_の「日本式双晶」など、
   数点は私のコレクションに加えさせてもらった。
    ( 2023年7月 採集 )

2. 産地

    甲武信鉱山は今でも人気の産地のようだ。。湯沼鉱泉で入山料(一人1,000円、宿泊者は無料)を払い、
   社長に場所を聞けば、「○○で、△△から来たXXさんが、”素晴らしい”□□□□を採った」など、ホットな
   ニュースも教えてくれるはずだ。
    また、Yさんが作ってくれた「甲武信鉱山産地マップ」がもらえるかも知れない。

3. 産状と採集方法

    ここは石灰岩にドロドロのマグマが接触し、元素のやり取りがあって、金やテルルなどの鉱物や灰バン柘榴石
   などの鉱物が誕生したスカルン鉱床(接触交代鉱床)とされている。その証拠に、第2テラス付近や貯鉱場で
   「珪灰石」を採集することができる。ミニ・ツイン坑道の中には、方解石脈が走っているし、貯鉱場で一番目につく
   鉱物は方解石だ。

    武田信玄の時代から昭和20年代まで断続的に金を採掘したと伝えられ、山腹のあちこちに坑道が残されて
   いて、その前には広範囲にズリ石が厚い層をなしている。

    ここでの採集は、バラエティに富んでいて、女性や子供でも楽しむことができる。主な採集方法は次の通りだ。

    @ 露頭を叩く。
       ハンマとタガネを使って、坑道内や岩壁の露頭を叩いて、掻きとる。母岩付きのバージンな状態の標本が
      得られるが、体力と技術が必要だ。
    A ズリ掘り
       熊手を使って、ズリを掘り起こし、埋もれている水晶や柘榴石などを採集する。
    B 表面採集
       誰かが掘った後を丹念に見て回ると、思いがけない良品を得ることがある。特に、雨が降った後が良い。
       今回、「日本式双晶」を見つけたのはこの手だ。

     入山前に、Sさんに説明するため、この日私が持参した採集道具を並べてみた。

     
                        甲武信鉱山採集道具

      採集道具は、訪れる産地によって増やしたり減らしたり(持って行かない場合もある)調整する。例えば
     坑道に入らなくて陽が沈む前に帰着できるならキャップランプは持って行かない。露頭叩きだけの産地なら
     タガネは少なくても5本、硬い露頭ならハンマは4.8kgを持参することもある。

      今回巡った甲武信鉱山のルート

      登山口→第1テラス→第2テラス→ベスブのズリ・露頭→松茸水晶ズリ→(尾根に出て)第2松茸水晶
     →川端下水晶坑道上の鞍部→(戻って)緑水晶ズリ→灰重石・砒鉄鉱結晶露頭下→灰鉄輝石坑道ズリ
     →ミニ・ツイン坑道→(下山)ベスブのズリ手前の尾根を下る→柘榴石産地で尾根を離れ→第1テラス
     →登山口

      この日の総歩数は、8,133歩だった。

4. 採集鉱物

 (1) ベスブ石【Vesuvianite:Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8Al4(F,OH)2(OH,F,O)8(SiO4)10(Si2O7)4
      黒い柱状結晶の母岩付きと分離結晶が今でも採集できる。それらは、みなSさんに謹呈し、変わり
     映えのしない透明〜黄白色細柱状結晶が付いた標本を持ち帰った。

       
               全体                          部分
                             ベスブ石

 (2) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
      松茸水晶ズリから尾根に向かって登り始めてすぐ、地面に白い板状のものが落ちているのに気づいた。
     この場所では、何枚か日本式双晶を採集しているので、日本式双晶かな?、と思って拾い上げて
     見ると、やはり日本式双晶(Japanese Law Twin)だった。Nさんの奥さん、「ミ二なんて言わせませんよ」
      経験から、発見するポイントは、「あると思って探す」ことのようだ。

     
          日本式双晶(両翼16ミリ)

 (3)灰鉄輝石【Hedenbergite:Ca(Fe,Mg)Si2O6
    灰重石・砒鉄鉱露頭の下にある灰鉄輝石の坑道のズリで、表面採集し、Sさんにトリミングしてもらったら、もともと
   もろいので、2つに割れてしまった。その小さい方をいただいた。板状結晶が面白い。
    暗緑色の柱状で産出することが多いが、晶出後に鉱液(熱水?)の浸入によってか結晶面が侵され”骨粗しょう症”
   状態になった上に黄褐色〜真っ黒の錆びに覆われているものが多い。これも蓚酸液に浸すと、一部は輝きを取り戻す。

   
              灰鉄輝石

 (4)「雲母似」不明鉱物
     今回も「雲母様」不明鉱物をベスブ露頭で採集した。薄くはげるへき開が顕著なので、「雲母」族には間違いない
    と思う。透過光で見ると緑色に見え、反射光だと銀白色だ。
     一人で、「鉄リチア雲母」ではないかと思っているが・・・・・・・・・。

     
            「雲母似」不明鉱物
                            

5. おわりに

 5.1 6年ぶりの『甲武信鉱山』
      6年ぶりに甲武信鉱山に登った。あまりの暑さに持参した飲み水を飲み干し、”脱水症状”で太腿が
     攣りそうになったが、足の痛みや息苦しさはなかった。

      60歳を過ぎた頃、湯沼鉱泉の社長、Yさん、そして社長の知人・Sさんと4人で川端下集落
     側から、川端下水晶坑道に登ったことがあった。
      Sさんは、当時74歳か76歳だたっと記憶しているが、われわれと同じペースで登るのには驚き、
     「私もSさんくらいの歳まで川端下に登りたいものだ」と願っていた。

      気が付いてみると、自分がその時のSさんの歳を超え喜寿を迎えた。何とか甲武信鉱山を縦横に
     駆け巡って良品も手にできた。病弱だった子どもの頃の私からは、考えられないことだ。

 5.2 楽になった『甲武信鉱山』
     30年くらい昔、甲武信鉱山に上り始めたころは、同行者も若く、”直登”が当たり前だった。これだと、
    ベスブのズリまで45分くらいで登れた。
     それから10年ほどたって、登山口から右に行って、左斜めに折り返す迂回路ができ、今に至っている。
    今回登ってみると、第1テラスからベスブの露頭(松茸水晶ズリ)まで、”ジグザグ”の登山道が幾筋も
    できていた。
      こうなると、時間は昔の2倍かかるが、登るのは楽だ。

     ただ困ったことがある。それは、”アブの大発生”だ。貯鉱場あたりだと、車を降りると二、三十匹のアブが
    襲い掛かってくる。刺されると痛いし、水ぶくれができる。村役場は「アブ大発生注意報」を出している
    ようだ。山林をレタス畑にしてしまったツケが回ってきたのだろうか。
     登山口では数匹だが、ベスブのズリ辺りまでまとわりついてきて”五月蠅い(うるさい)”。「蠅(はえ)」の
    字を「虻(あぶ)」に変えないといけないかも。
            

 5.3 mineralhunters農園
      山梨に戻ると、何はさておきmineralhunters農園の手入れと収穫だ。この季節、1週間も畑に
     行かないと雑草でジャングルのようになる。

      雑草取りのコツは、「小さいうちに根っこから抜く」だ。楽な「草刈り」をして済ませると、また茎が伸びて
     茂ってしまうからだ。特に雨上がりで、土が柔らかいときだと、楽に根っこから引き抜くことができる。

      1週間とか10日ぶりに農園に行くと、トマトなどは真っ赤に完熟し、地面に落ちているものもあるくらいだ。
     これを収穫して、葡萄には少し早いので、山梨特産の桃と一緒にチルド便で孫娘に送ってやると、「じいじの
     トマト甘くて美味しかった」と評判が良い。
      お盆休みには、帰省するようなので、自分で摘み取ってその場で味わってもらうつもりだ。そのころには、
     スイカやトウモロコシなども収穫できるだろう。

     
          「鈴なり」のトマト

6. 参考文献

 1) 八木 貞助:信濃鉱物誌,古今書院,大正12年
 2) 藤本 治義:南佐久郡地質誌,社団法人 南佐久教育会,昭和33年
 3) 長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,長島乙吉先生祝賀記念事業会,昭和35年
 4) 山田 滋夫:日本の鉱物産地総覧,つゆねこ企画,2017年
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