南極から帰り、2月中旬に湯沼鉱泉の社長とお姐さんにお土産を持って訪れ、少し先になるが、今年も神奈川
の私立小中一貫校の一泊二日の野外授業の予約をお願いした。
行き帰りに通った川上村の石器産地は、30センチ以上の雪に覆われ、その後も雪が降ったようだ。しかし、桜
前線の北上が話題になる頃になると、山梨県の標高の高い清里あたりの朝の最低気温がプラスになる日が続
くようになった。
3月下旬、川上村を訪れると、日蔭には雪が残っているが、広いレタス畑には雪がなく、石器観察ができる状
態だった。畑に足を踏み入れると、暖かい春の日差しで霜が溶けてドロドロになっていて、初日は4,557歩(約4
km)歩いただけでギブアップだった。
一週間ほど経って疲れもとれたころ、再び訪れると前回のリハビリの効果がでたのか、13,322歩(約13km)
歩いても余裕があった。
2回の訪問で、観察できた石器や遺物は次のとおりだ。
@ 水晶(石英)原石
A 尖頭器(Point)とも呼ばれる”石槍”
B 掻器(スクレーパー)
C 石鏃(やじり)
D 縄文土器
E 大正11年(1922年)発行の一銭銅貨
以前から川上村のKKだけでなく、KD、YK、YSなどの旧石器から縄文遺跡で水晶製の石器を確認していたの
だが、今回も水晶(石英)の塊や剥片を観察でき、広い範囲で水晶が石器の材料として利用されていたことを
確認できた。それだけ、この地域が水晶原石が豊富だった証(あかし)だろう。
2010年に、この地域の一部を案内してくれ、石器観察の手ほどきをしていただいたYさんに厚く御礼申し上げ
る。
( 2015年3月 観察 )
この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。12月から2月までは雪に覆われているから、実質、観察できるの
は限られた期間になる。
2014年は気象が安定しなかったせいで、レタスの価格が高騰し、通常一箱1,200円くらいのところ、3,000円を
越える値がついた時期もあった。同じ畑に年に何回か苗を植えて収穫するので、1回でも多くサイクルを回せば
それだけ年収が増えるせいか、2015年は農作業が昨年より早めにスタートしていた。
同じ畑に同じ作物だけを作っているので、年毎に土が痩せてきて、病気に弱くなったり、作物のできばえも悪く
なる。その対策として、新しい土を運んできて上に被(かぶ)せる”客土(きゃくど)”が行われる。こうなると、もと
もとあった遺跡の表面が20〜30センチも下になってしまい、石器が隠れてしまう。こうして、消滅しつつある産地
も少なくない。
今までに訪れた産地で確認できた水晶製石器の状況を一覧表に示す。
◎:数個確認 ○:産出確認 ×:産出未確認
区 分 | 遺 跡 (時代) | 備考 | YD (旧石器) | KD (旧石器) | KK (旧石器) | YK (縄文) | YS (旧石器) | BD (旧石器) | 水晶製石器 | × | × | ○ | × | × | × | 水晶(石英)塊 | × | × | ○ | × | ○ | ○ | 水晶剥片 | × | ◎ | ○ | ○ | ○ | ◎ | 結晶面が見える水晶 | × | ○ | × | × | ○ | × | 備 考 | 2010年に初訪問 | 2013年 初訪問 | 2015年 初訪問 |
過去に訪れて観察できなかった遺跡や新しく訪れた遺跡で、水晶(石英)の塊や結晶面の見える水晶を
確認できた。この結果から、水晶の塊や剥片は広い範囲で観察できることが明らかになった。しかし、「水晶
製石器」と呼べそうなものは、KK遺跡でしか確認できていない。
4.2 観察石器と遺物
今回、観察できた石器と遺物の一部を紹介する。
区分 | 観察地 (時代) | 材 質 | 写 真 | 説 明 | 備考 | スクレーパー (掻器) | KD (旧石器) | 黒曜石 |
![]() 長さ 3.2cm |
肉などを剥がしたり 革をなめした。
形状が親指に | 今回も複数個観察 | 石槍 (ポイント) | KD (旧石器) | 黒曜石 |
![]() 長さ 3.3cm |
ナイフとしても 使われた。 | 頁岩 |
![]() 長さ 4.4cm | BD (旧石器) | 下呂石 |
![]() 長さ 7cm |
下呂石製石器を 多数観察 |
石鏃 | YK (縄文) | 黒曜石 |
![]() 長さ 1.3cm | 土器 | 粘土 |
![]() 長さ 1.9cm | 直線の文様入り | 八ヶ岳周辺では、 数少ない縄文遺跡の ひとつ |
硬貨 | YS (旧石器) | 銅 | ![]() | 「桐1銭銅貨」 |
大正11年 (1922年)発行
1銭銅貨は、 |
「シラネアオイ」は、2011年に長野県白馬村にある山野草店で購入したもので、昨年は2輪咲いて驚いて
いたが、2015年は4輪も花が咲き、予想以上に山梨の気候に合っているようだ。
5.2 『ミネラル・ウオッチング』シーズン開幕
3月は、ミネラル・ウオッチングにこどもたちを案内した学校から招待され、発表会や卒業式に出席すること
が多かった。このときにお会いした先生から、「今年もよろしく」と声がかかっていたが、早い学校では、5月か
ら予約が入ってきて、いよいよミネラル・ウオッチングのシーズンの開幕だ。
2014年2月の大雪で崩落した湯沼鉱泉の浴場は、GWまでに完成をめざして復旧工事が進んでいる。毎年
開催して
いる『月遅れGWミネラル・ウオッチング』は、『湯沼鉱泉の浴場復興記念』と題して、6月後半に
開催を計画している。そのための下見、そろそろ出かけようと思っている。
常連さんに加えて、新しく参加する親子もいるはずだ。全国各地の石友とお会いするのを、楽しみにして
いる。