甲武信鉱山貯鉱場2023年6月












        川上村甲武信鉱山貯鉱場 2023年6月

           ( Ore stock yard of Kobushi Mine , Jun. 2023 , nagano)

1. はじめに

    現在、ほとんど都内のマンションで暮らしていて、山梨に戻るのは切手趣味の会の例会と
   MH農園の手入れ・収穫のときくらいだ。毎年夏から秋にかけて、東京や神奈川の私立一貫校
   の小中学生を対象に、長野県南佐久郡川上村で鉱物の課外授業の講師を努めている。

    2023年5月、K先生から「7月に鉱物の課外授業を行いたいので、講師をお願いしたい」、
   とメールをいただき、2つ返事で受けることにした。

    一番気になっているのは、こどもたちや先生、そして保護者を案内する甲武信鉱山の貯鉱場に
   行くのに千曲川の上流・梓川を渡るのだが、そこに架けておいた橋がどうなっているかだった。
    3月だったかに行ったときには、橋は健在で、何本か横木を交換すれば大丈夫だろと思い
   6月中旬、山梨に帰ったついでに下見に行くことにした。念のため、修繕のための工具と部品を
   持参した

    貯鉱場の手前の橋を見て、目を疑い、事態が呑み込めると”呆然”となった。2020年に補修して
   置いた橋が、影も形もなくなっていたのだ。

 川上村甲武信鉱山貯鉱場 2020年8月
( Ore stock yard of Kobushi Mine , Aug. 2020 , Nagano)
     

     
                影も形もない橋
 

    今回も、”修復”どころか、”ゼロから架け替える”大工事が始まった。
    ( 2023年6月 体験 )

2. 破損状況を確認し、対応策を考える

     壊れた橋は、流出防止のロープに繋がったままで、梓川の左岸(上流から見て左側;
    貯鉱場に向かって川の手前)に”ノビていた”。

     破損個所を確認すると、丸木橋の2本の太い木はちょうど真ん中あたりで折れていた。
    橋のマルタと横木の間のスキマには、上流から流れてきた小枝がビッシリと食い込んでいて
    引っ張ったくらいでは簡単に抜けなかった。
     これらのために橋には単なる丸木の何倍かの面積に膨れ上がり、それだけ大きな力(抗力)
    が働き、一番大きな応力が生じる真ん中付近で折れた。折れた橋には、さらに大きな力が働き、
    右岸側を固定していた鎖の固定箇所から引きちぎられ、最終的には左岸に打ち上げられた。

     両端をシッカリ固定しすぎたため、橋の真ん中で折れたので、「右岸側の固定を弱くする」
    ことが今回得られた教訓だった。

3. 救いの神 現る

     新しく橋を架け直す大仕事をせねばならない。前回、2020年の時は、1本の丸太は使える
    状態で、もう1本の丸太を切り出してきて、修復するところからだけでも丸2日間かかった。
     今回は、ゼロからのスタートなので、何日かかるか分からない。取り敢えず、橋の残骸から使える
    横木や釘を鉱物採集用のハンマとバールで回収した。
     貯鉱場へのルートにカラ松が倒れていたのを記憶していたので、必要な長さに切って枝を払った。
    200kg近い丸太を岩や立木の障害物を避けながら一人で運ぶのは難儀だ。

     この日、神奈川県のSさん一家4人が貯鉱場で採集していた。後で聞いた話だが、Sさんは
    砂金採集がメインで、水晶が欲しい奥さんを埼玉県の荒川に連れて行ったが、丸まった川ズレ
    しか採れなかったので、六角形に結晶をしている水晶を求めてここを訪れたそうだ。

     私が悪戦苦闘しているの見たSさんが近づいてきて「これまで、何回か橋を使わせ貰っているので
    手伝いましょうか」と声をかけてくれた。
     困り果てていたので、手を貸してくれるようお願いした。高校生の長男も加わり、丸太を川岸まで
    運んだ。さすがに男3人だと楽だ。
     もう一本の丸太は2020年に目星をつけておいたカラマツだが、3人がかりでも横倒しできず、
    あきらめて少し離れた場所の少し細い倒木を切って川岸に運んだ。

     Sさんが川に入って右岸に渡り、丸太に結わえたロープを引っ張ってくれ、2本の丸太が架かり
    橋の原形ができた。

     
             橋の原形ができつつある

     高校生が横木を打ち付けてくれ、橋らしくなり、右岸側の固定、そして左岸側の流失防止ロープ張りも
    手伝ってくれた。
     こうして、3時間余りで、橋は完成した。私一人だったら何日かかったことだろう。Sさん一家には、感謝
    している。

     
             橋が完成

4. 渡り初め

     今回の橋建設の功労者・Sさん一家に渡り初めをしていただいた。これで、7月に小学生たちは濡れずに
    貯鉱場での鉱物採集を体験できそうだ。

     
        Sさん一家の「渡り初め」

5. おわりに

 ■ 情けは人のためならず
     Sさんから「ブログをやっていますか」と尋ねられた。やっていると答えると、「MHさんでしょう」と私の
    正体がバレてしまった。「町田休暇村のYさんから、『この橋を作ったのはMHさん』だとも聞いた」そうだ。

     私のブログの読者でもあるSさんが「村の水道施設の脇から入ったペグマタイト産地に行った」と聞き、
    茨城県大能(おおのう)と湯平(ゆだいら)のペグマタイト産地に行ってブログに載せたことを思いだした。

大能・湯平のペグマタイト鉱物
(Pegmatite and rare minerals in Oonou and Yudaira,Ibaraki Pref.)

     砂金掘りを始めて間もないSさんは腕が良いようで、お近づきのしるしにと山梨県で採った砂金を恵与
    してくれた。
     それは、直径が 5.8_、重さが0.14グラムと私が過去に採集した大きさをはるかに超えるものだった。

     
               Sさん恵与「山梨産 砂金」

     本来ならお手伝いしていただいた私の方がお礼を差し上げるべきなのに、逆になってしまい恐縮している。

 ■ いつまでできるか
     2020年にたった一人で橋を修復したときは、”いつまでできるか”不安だった。今回、ブログの読者の一人
    Sさん一家が手伝ってくれたおかげで、一人でやるより短時間で出来上がって思い至った。

     ネット社会の今、ネットでお手伝いして下さるよう、声をかけてみるのもありかな、と考えている。

     私が、10年以上担当させていただいていた湯之奥金山博物館恒例の「砂金堀大会」の競技成績集計も
    Iさんに引き継いでいただき、問題なくできていると聞いた。

     適任の人に引き継ぐことが、私に残された最大の課題だ。

6. 参考文献

 1) 渡邊 萬次郎:金銀読本,日本評論社,昭和9年
 2) 小出 五郎:長野縣川上村川端下附近の鑛物,我等の鑛物,昭和16年
 3) 地質調査所編纂:日本鉱産誌 I-a 主として金属原料となる鉱石
               東京地学協会,昭和30年
 4) 加藤 昭:硫化鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年
 5) 鉱物同志会編:水晶 15号,同会,2002年12月
 6) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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