この絵葉書に私の”解説”の中で 『水晶産地としてのみならず、”半鐘峠”の
地名そのものが私にとって初見です』 と書いた。
2月に入って、私の住む山梨県甲府市でも10cmを超える積雪に見舞われるなど
フィールドでのミネラルウオッチングが難しいこの時期、本屋を巡っていると「山梨の
峠」と題する一冊が眼に入った。”半鐘峠”が閃き、索引を見るとあるではないか。
『 半鐘峠(水晶峠) 』 とある。これなら、水晶産地としても納得である。
( HPにも書いたように、上の写真と説明は合っていない。写真の水晶は、長野県
川上村川端下産である。また、半鐘峠(水晶峠)は、甲府市・旧宮本村にある )
このように、山梨県に住みながら、地元のことで知らないことが多く、愕然とした。
山梨県は水晶は言わずもがな、ライン鉱はじめ各種の鉱物を産することで有名で
少しでも地元を知ろうと山梨の峠とそこ(近傍)で産する鉱物をまとめてみた。
( 2006年2月調査 )
先細り水晶(群晶) 角閃石(山)入り
黄鉄鉱入り
水晶峠(半鐘峠)産の各種水晶
このように、山梨県の「峠」、あるいはその近くでは各種の鉱物が産出する
ことが知られており、「山梨の峠と鉱物」についてまとめてみた。
3.2 峠の名前
峠の名前がどのようにして付けられたのか、小林経雄氏は「甲斐の山山」の
中で次のように分類している。
@ 村落名(字名も含む)による
A 山の名前に由来
B 峠の姿・形から
C 峠道の途中に存在するものによる
D 峠道の特徴による
E 峠に祀った神仏による
F 鳥の飛翔コースによる
G 伝説に因む
「水晶峠」などは、付近で水晶が採れる所から名付けられたとされ、C の
代表例でしょう。
また、1つの峠に、2つ、3つと名前が付けられてい峠もあります。例えば
私が湯沼鉱泉や甲武信鉱山に行くとき利用する「信州峠」は山梨県から信州
(長野県)川上村に抜ける峠なので、「信州峠」あるいは「川上峠」と呼んでいる。
一方、信州側の人たちから見れば、甲州・小尾の集落につながる峠なので
「小尾(おび)峠」と呼んでる(呼んでいた)。
峠 名 (読み) 【別 称】 | 所 在 地 | 出 典 | 産 出 鉱 物 | 木賊峠 (とくさ) | 甲府市下黒平 〜北杜市岩下 | 付近のガレ場から 煙水晶・電気石 アマゾナイト(天河石)など |
饅頭峠 (まんじゅう) | 甲斐市大明神 〜北杜市大内 |
「甲斐叢記」巻之六道路之四 『団子石』の項に 「また上手村の域内の 長者窪の上饅頭嶺に 産するは状大なり 里人長者の饅頭と云ふ」 | ![]() 饅頭石 (加水ハロイサイト) |
ホッチ峠 | 甲斐市神戸 〜韮崎市古森 ![]() ホッチ峠 |
「甲斐叢記」巻之六道路之四 『団子石』の項に 「団子は新居村(旧双葉町)の 域より産づ本草綱目の 太一餘糧の條下に載せたる 卵石黄と云もの即ちこれなり」 | 饅頭峠と同じ地層 饅頭石 |
水晶峠 (すいしょう) 【半鐘(はんしょう)峠】 | 甲府市黒平 〜甲府市御室小屋 〜金峰山 ![]() 2005年10月 |
「甲斐国志」巻之二十山川部 第一の『金峰山』の項に 「水晶嶺ニ小石英、燧石等ヲ産ス」 | 各種水晶(含む双晶) 鋭錐石などのチタン鉱物 武石 |
六本楢峠 (ろっぽんなら) | 山梨市柳平 〜甲府市荒川上流 |
ここから左に荒川上流に向かうと 甲府市との境が乙女鉱山 水晶(日本式双晶) ライン鉱、灰重石、輝水鉛鉱など
峠の先の大楢の木を右折すると |
天神峠 (てんじん) 【団子(だんご)峠】 | 甲府市竹日向町 〜甲府市塔岩町 |
「甲斐叢記」に 「卵石黄乃ち是なり 平瀬村、竹日向村の間団子嶺にも あり」 | 饅頭石 (加水ハロイサイト) 竹日向町側の |
金子峠 (きんす) | 甲府市上帯那町 〜甲府市塚原町 |
「甲斐国志」巻之十村里部 第八『塚原村』の項に 「・・・上帯那ヘ壱里許 金子峠ト云」 | 「甲斐国志」百二十三附録に 「金子峠ニ水晶金鉱アリ」とある |
白山峠 (はくさん) 【梨ノ木(なしのき)峠】 | 甲府市羽黒町 〜甲府市千代田湖 |
「甲斐国志」巻之十村里部 『羽黒村』の項に 「・・・頂上に梨ノ古木一株アリ 梨ノ樹峠ト名ツク」
「甲斐国志」巻之二十一山川部 | 花崗岩からなる白山の ペグマタイト脈から 鉄礬ザクロ石など |
岩堂峠 (いわどう) | 甲府市上積翠寺町下 〜笛吹市徳条 |
「甲斐国志」巻之三村里部 第一の『山根村』の項に 「石水寺ノ岩堂ト云渓ヨリ 岩堂峠ヲ越ヘ本村ニ出ル 径アリ」 | 「甲斐国志」百二十三附録に 「石水山ニ水晶金鉱アリ」とある
山本・山梨県知事が子供のころの |
坂脇峠 (さかわき) | 甲州市平沢 〜甲州市滑沢 | 峠から下りの途中、左側に 「鈴倉(庫の誤り)鉱山入口」の 標識がある(あった?)
鈴庫鉱山は、カニュク石などの
「日本希元素鉱物」誌に |
横手山峠 (よこてやま) 【横手(よこて)峠】 |
主要鉱山(金山)への 山道峠で塩山市落合集落から 黒川金鉱前を経て 三重(三条?)河原へと至る |
「甲斐国志」巻之二十三山川部 第四の『鶏冠山・黒川金山』の項で 「入会山ノ内黒川ニ在ル大岩山ナリ 高サ数千丈白雲常ニ覆ヘリ 本州鬼門ノ鎮ニシテ実ニ霊山ナリ 此ノ辺金坑多シ」 |
黒川金山跡では 自然金が採集できる |
柳沢峠 (やなぎさわ) | 甲州市裂石 〜甲州市後屋敷 |
「甲斐国志」巻之二十三山川部 第四の『鈴鞍山』の項に 「鈴鞍山(鈴庫山)ト萩原山トノ間ニ 黒川ヘ越ル峠アリ |
「日本希元素鉱物」に 「柳沢峠のすぐ西の沢に水晶坑跡があり このペグマタイト中に褐レン石、緑レン石 チタン鉄鉱があり、内部が褐レン石で 表面が緑レン石になっているものも 産する ・・・・沢をパンニングすると灰重石が みられる」 |
大菩薩峠 (だいぼさつ) 【丹波山大菩薩 (たばやまだいぼさつ)峠】 | 甲州市裂石 〜小菅村・丹波山村 |
「甲斐国志」巻之二十三山川部 第四の『萩原山』の項に 「峠ヲ大菩薩ト云州人ノ口碑ニ 新羅三郎奥州ヲ征スル時此路ニ 由リ・・・・・・・・即チ軍神擁護ノ 験ナリトテ遥拝シテ南無八幡大菩薩チ 高声ニ讃嘆ス是ヨリ遂ニ峠名トナル」 |
峠の入口「勝縁(しょうえん)荘」の東の 小沢に褐簾石を産する |
石丸峠 (いしまる) 【小菅大菩薩(こすげだいぼさつ)峠】 【石(いし)まら峠】 |
甲州市日川 〜大月市深城 |
「日本希元素鉱物」に 「大菩薩峠より石丸峠に行く「長兵衛小屋」の 西の小沢にはパンニングで少量の 灰重石が見出された」 |
トズラ峠 (とずら) 【天神(てんじん)峠】 【葛籠(つづら)峠】 |
大月市金山 〜大月市日影 |
金山側の林道入口から 少し下ると金山橋という 古い橋が保存されており その先に金山鉱の跡もある という
ここから流れる浅利川で砂金が |
地蔵峠 (じぞう) 【金山(かねやま)峠】 | 身延町湯之奥 〜富士宮市猪之頭 |
「甲斐国志」巻之三十四山川部 第十五の『金山嶺』の項で 「湯之奥村ヨリ駿州井ノ頭ヘ 至ル界ニ在リ・・・・・・ 金砿三所湯之奥村ニ在リ 中山、内山、茅小屋ト云」 |
金山の坑道(露天掘り)や 製錬所跡から金鉱石や砂金が 採集できる |
ドノコヤ峠 (どのこや) | 芦安村 〜早川町奈良田上 |
芦安鉱山跡への通り道に なっていて、芦安鉱山跡では 銅鉱などが採集できる |
(2) 「乙女鉱山」は、なぜ”乙女”という一見鉱山と縁のない名前がついたのか
以前から気になっていた。
「乙女坂」の説明の中に、『乙女ハ御留デ昔時往来ヲ禁ズ』 とあるのを読み
少し納得ができた。
しかし、「水晶峠」の別名が「半鐘峠」とあるが、何故なのか全く分からない。
少し暖かくなったら、メッキリ数が少なくなった黒平の古老に聞いて見たいと
考えている。
(3) このページをまとめてみて、甲府盆地の北方の峠で鉱物の産出が多いのに
比べ、それ以外の場所での産出が少ないのに気付いた。私が訪れる頻度が
影響しているのかも知れない。
黒平や水晶峠など何度も訪れている産地がある反面、名前は知っていても
一度も訪れたことがない産地も多いので、少しずつ回ってみたいと考えている。